by大村昂太朗
実は関係性が深い?副業と企業における制度設計を解説
昨今多くの企業では、「働き方改革」の影響から社員の副業を受け入れる動きが加速しつつあります。しかし、メリットのみでなくデメリットもあるため、禁止としている企業も多いことは事実です。
副業が禁止されてきたのは、「本業に集中できなくなる」などの理由が大きかったものの、企業内で制度設計を行う余裕がなかったという理由も挙げられます。
どのような制度設計を行えば、企業は副業を上手く受け入れられるのでしょうか。この記事では、
- 副業に制度設計が何故必要なのか
- 制度設計を行うためには現状の把握が必要
- 目的やメリットを踏まえた制度設計が重要
といった内容を詳しく伝えていきます。副業の仕組みや制度設計について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
副業を理解することからスタートする
まずは、副業について学んでいきましょう。制度設計は時間のかかる作業です。監督署への届け出なども含めた手続きだけでなく、副業のメリットやデメリットから検討していく必要があります。以下のような点が副業のメリット・デメリットです。
メリット | デメリット |
従業員のスキルやモチベーションが向上する | 時間や健康の管理が難しい |
経験や人脈などを組織の業務に反映することができる | 職務に対する意識の低下が考えられる(離職の増加) |
人材育成のコストを削減できる | 情報漏洩などのリスクがある |
メリットやデメリットをまとめてみると、企業側の管理体制をしっかりすれば副業を行っても問題は発生しにくいといえるでしょう。
そのため、企業として制度設計する際には、労働者の副業の捉え方と企業における考え方の両方を上手く反映させる必要があります。
例えば、メリットとデメリットを相対的に比較して、「どのような事項を禁止とするのか」などの細かい要件は各社で異なり調整することが必要です。
また制度設計を行う際は、現状の企業がどのような制限を掛けているのかなどもチェックしてみましょう。
企業体が行う副業の制限に関しては、現状だと4つの形があります。
- 全面禁止
- 許可
- 届出
- 全面容認
それぞれを詳しくみていきましょう。
全面禁止
副業を全く認めない体制です。そのため、副業に対するメリットやデメリットは発生しません。しかし、「副業を認めない」姿勢は時代遅れなイメージを持たれやすいといえます。
そのため、従業員が自由な環境を求めた場合、退職や転職に踏み切るなどのリスクが考えられるでしょう。
また、全面禁止にしていても隠れて副業をやっている社員が出てきてしまうかもしれません。副業がばれた際はトラブルになることが間違いありませんが、なぜ副業を認めないのかといった理由を社員が納得できるように設定しておくことは重要です。
許可
許可を得る場合は、「競業での副業禁止」「労働時間の管理」などを条件として限定的に副業を認可します。
あくまでも許可された内容や規則を全面的に守る必要があるため、企業としても統制を取りやすい点がメリットです。社員としてもしっかりと規則が作られているということは副業の見通しが立ちやすく、やりやすい体制であると言えるでしょう。
届出
事業者か副業の内容をまとめたものを提出させるなどの方法で副業を認可する方法です。
- 内容に制限を加える(企業がその内容を精査)
- 届け出をしたものを全面的に認める(一定の基準や規則をクリアする)
などのタイプに分けられます。それぞれどのような手法を取るかは企業で異なるものの、自社の風土に合わせて内容を変化させていくことがベストでしょう。
全面容認
副業に対して全く制限を設けないのが、全面容認です。許可や届出なども必要ないものの、過労などの状態に陥りやすいため、企業が副業を行う人材に対して聞き取りなどの対応を行います。
そうすることで、労災などのリスクの軽減も可能です。社員に対するサポートを実施すると、社員側も本業と副業の両立がしやすいでしょう。副業の制度設計を行う場合、メリットやデメリットを考慮したうえで、どのような制限を副業に加えるのかを選択しましょう。
制度設計を行う3つの理由
企業では、制度設計をせずに副業解禁をしたとしても、本業にプラスに働くことはほぼありません。統制が取れなくなり、場合によってはマイナスになる可能性の方が高いといえます。
そうした事情をふまえて、ここでは制度設計を行う理由についてみていきましょう。
現状の業務内容に悪影響を出さない
副業に対する制度を考慮する場合、現状の業務にどれほど影響があるのか見極める必要があります。
例えば、副業を解禁する前の状態で「誰がどこまで業務を遂行しているのか分からない」場合には、業務内容の把握が必要となります。
副業を行う場合、あくまでも本業に対して悪影響を出さないことが非常に重要です。副業を許可する場合も、
- 副業の内容の詳細
- どの程度の時間をかけるのか
- 収入はどの程度なのか
- 起業まで行うのか
などの細かな規定を制定し、誰がどれに当てはまるのか企業として把握することでデメリットを防ぐことが可能です。
対して、副業を全く制限しない場合でも、「本業に影響がなければ自分の裁量に任せる」といった制度設計を行っている企業もあります。
副業の受け入れ方は企業によって大きく異なるものの、共通しているのは「本業をおろそかにしないこと」だといえるでしょう。
副業によるメリットを業務に活かしたい
副業の制度設計を行うタイミングでは、企業の中でも副業のメリットが「業務に対してプラスとなるのか」はよく争点になります。副業を行う人材を受け入れるメリットは、
- 様々な影響を受けることで個人のスキルが向上し、生産性の向上につながる
- 幅広く活躍してもらうことによって、既存のシステムやノウハウに対して革新的な考えをもたらす
- 最初から高いスキルを持つ人材を会社の成果につなげるために活用できる
などがあげられます。特に、時間に対する生産性の向上や人材が持つノウハウを活かして企業の成果につなげられる点は、副業に対する制度設計の際にも考慮しなければなりません。
企業に関わる立場や時間なども考慮し、どの制度がどのような人々に当てはまるのかといった内容も策定しましょう。そうすることで、副業を企業の成果につなげていくことが可能です。
副業を理由に本業を辞められないための対策
副業は、場合によっては収入が本業を大きく超える可能性もあります。
しかし、副業の利益が大きくなったとしても、拘束時間などで本業が従業員のデメリットにならなければ、本業を辞める人は少なくなると想定できるでしょう。
その理由は、「本業が副業に費やす時間を圧迫することがなくなる」ためです。企業がいくつもの事業で収益をあげるように、従業員もいくつもの収入の柱を持つことが副業の目的です。
そのため、企業側の制度設計によって、副業を行っている人材の業務内容などを一定範囲に留め、時短勤務などの制度を整えましょう。
その場合、副業を理由として辞められる可能性を低くすることが可能です。時間や仕事の成果などによって、従業員の時間的な拘束の在り方を変えていくことも制度設計によって行うことが可能です。
例えば、「副業を行っているという事実だけで優秀な人材を失う」などの事態は避けたいですよね。
副業の内容を企業が把握し、「本業に問題がなければ許可する」といった制度設計で人材の流出を防ぐことが可能となります。
制度設計の順番を考慮しよう
制度設計と一言でいっても、ほとんどの企業は就業規則そのものはある程度決まっています。そして、副業のための制度設計に対しては変更や改定を重ねていきましょう。
考えられる副業のパターンを自社に当てはめる
まずは、自社の業務時間や働き方を再度見直すことから始めましょう。例えば、フルタイムでの就業のみを認めるのか、短時間勤務が可能なのかといった規則は副業に与える影響は大きいといえます。
副業ではないとしても、フルタイム以外での働き方が社内で可能かどうか、その人の行っている業務が他の人で代替可能なのかなどを検討する必要があります。
仮に代替が可能であれば、副業を許可しても業務の成果に問題が生じることはありません。
副業を受け入れて制度設計を行う場合、自社の業務がどのように変化するのか、予想・検討することからスタートしていきましょう。
経営陣と話し合いながら受け入れ体制を作る
次に、副業を受け入れるために既存の規定を変えていきます。
例えば、働き方をフルタイムのみでなく、「時短勤務を認める」や「副業を許可する」などの規定の変化がなければ、副業を認可することができません。
そして、企業体として成長するためには個人が成長する必要があります。
仮に、一定の業務をこなせる従業員がいたとしても、その人のマンパワーで成り立っている業務体制では様々な問題が考えられます。
- 怪我や病気による長期休暇
- 転職による人材の流出
- 他の人が代わりに業務を行えない
などは企業に深刻なダメージを与えることも。しかし、副業及び副業者の採用を進めることによって、人材不足の解消や業務を分散化することが可能です。
経営陣の悩みと現場の状況や課題は異なる部分があるものの、副業によって自社にどのような効果が生まれるのかを検討しながら制度設計を行ってきましょう。
制度の策定は自社以外のノウハウも必要な部分も
そして制度策定の最終段階では、規定を変化させるために専門家などの力を借りて届け出などの細かい作業を行います。また、変化が完了した段階で従業員に対して周知する必要もあります。
また、従業員に対して副業を認可する場合には、「副業を認可する理由」を明確にして、どのような方法で許可や申請を行うのかなどの具体的な説明を行います。
従業員が基準に沿った副業を行うためには、その基準を明らかにしなければなりません。例えば、従業員がダブルワークを行う場合の契約内容は「個人事業主とする」などの規定を策定します。
実際に労働時間や労災の責任などのノウハウが自社にない場合には、労務コンサルタントなどの力を借りながら制度設計を行いましょう。
そうすることで、副業を認可する場合のデメリットを最小に抑えることが可能です。
労働条件と制度設計
労働条件などに関しては、特に細かく制度設計を行っていきましょう。企業の根幹にかかわる部分でもあるため、慎重な判断が必要です。例えば、
- 賃金
- 人材評価
などは多くの企業では曖昧な部分もあるため、制度設計のタイミングで見直すことが必要なことも。では、それぞれの条件に対して詳しく見てきます。
賃金と制度設計
副業を行っても、賃金の体系は通常のフルタイム勤務であれば変化はないと考えられます。
しかし、短時間や限定的な勤務体系となった場合にどのような規定に該当するのか、制度設計で明確にしなければなりません。
例えば、関わる時間の長さで「賃金や賞与などのカットを行う」などの規定を適用するかどうかを検討することが必要です。
賃金体系を明確にすることによって、人材に対する正確な評価が可能となります。制度設計を行う場合、賃金に関わる部分はそのまま従業員の仕事の成果に直結します。
長い時間を掛けて検討し、企業の成果につながるように制度設計を行いましょう。
人物評価と制度設計
人材に対する評価基準は明確である必要があります。例えば、「時短勤務によって人物評価が大きくマイナス」などとなれば、人材のモチベーションは大きく下落するもの。
そのため、副業によって時短勤務となっても人物評価に影響しない制度設計がベストだといえます。
労働の形は、副業の解禁で大きく変化することになります。これまでフルタイムだった人材が時短勤務などを望む可能性もゼロではありません。
特に労働時間に関しては、過労などのリスクを軽減するために把握する必要もあるでしょう。
まとめ
副業を受け入れる場合には、制度設計が必要になります。加えて、副業や本業を既に行っている人間を採用する際にも、制度設計で定めた評価基準が重要視されます。
制度設計は評価基準だけでなく、どのような働き方を受け入れるのか企業としての方針を明確にするためのものです。
特別なスキルを持つ人を副業社員として採用する場合にも明確な基準となります。
現状の就業規則や労働上の課題を把握し、副業を企業の体制として受け入れられる仕組づくりが制度設計だといえます。
仮に、制度設計を行わず副業を解禁した場合には、単に解禁しただけになってしまいかねません。副業による業務成果へのメリットが見込めない可能性もあるため、慎重に制度設計を行っていきましょう。
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