by大村昂太朗
サブスクリプション型ビジネスで活躍する5つの人材像と14の職種とは?サブスクの本質に迫る!
サブスクリプション型ビジネスで活躍できる人材像には、5つのパターンがあることを知っていますか?
「サブスクリプション」は、もともと雑誌や新聞の「定期購読」を意味する英語です。
ここから派生して、「顧客に対してある一定期間なにかしらのサービスを継続して利用可能にする対価として、料金を支払ってもらう課金形態を取るビジネス」のことを、「サブスクリプション型ビジネス(以下、サブスク)」と呼ぶようになりました。
この記事では、
- サブスク領域で活躍が期待される5つの人材像
- 具体的な14の職種
を解説しながら、サブスクリプション型ビジネスの本質に迫ります。
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目次
サブスクで活躍できる人材像
いま、サブスクの立ち上げと成功に寄与できる力をもった人材の争奪戦が始まっています。どのような人材が、このの世界で活躍できる人材なのでしょうか?
計数管理・事業マネジメントのプロ人材
まず大前提として、サブスクリプション型ビジネスは緻密な計算の上に成り立っているビジネスであることを理解しておく必要があります。
- どれだけの規模の会員数を、どれくらいの期間で獲得可能なのか
- その上下の想定ブレ幅はどの程度か
- その会員数の獲得に要する費用はどの程度か
- 獲得した会員の平均利用期間はどの程度か
- 解約を防止するために要する費用はどの程度か
これらすべてがあらかじめシミュレーションされていて、緻密なPDCAを高速で回しながら事業を組み立てていくのが一般的です。
なぜなら、そうでなければすぐ財務的に破綻してしまうビジネスだからです。
事業計画・事業管理者
まず何よりも求められているニーズが高い人材は、事業計画と事業管理のプロフェッショナルです。
サブスクリプション型ビジネスは、あらゆる活動をKPIに分解して管理していくことが求められます。
それも、財務的な事業数値とサービスの利用状況に関する数値の関連性を意識しながら、横断的に分析していく能力が求められるのです。
ビジネスにもサービスにも明るい人材が市場で高く評価されています。
グロースハッカー
数値計画と分析結果に応じて具体的な行動計画を組み立てて組織を動かしていくグロースハッカーにも、高い市場価値が認められる傾向にあります。
サブスクリプション型ビジネスは、ただ単に数字を分析して終わりではありません。
その分析結果に基づいて、仕入れからサービス運用、画面の設計に至るまで、あらゆることを即座に・徹底的に軌道修正していく必要があります。
活動計画を立て、進捗を管理し、何か阻害要因があれば社内外を立ち回って課題解決していく行動力と実行力のあるリーダーシップ/チームワーキング特性をもった人物が求められます。
データマネジメント
蓄積された大量の利用データの分析が重要なので、データ分析の基盤の構築をリードできるデータマネジメントのプロフェッショナルには非常に高い人材としての需要があります。
サービス利用の膨大なログデータをハンドリングし、サービスの中で利用されているもの/されていないものを、高速で分解して提示していくことが求められます。
多くの顧客データを取り扱うので、プライバシーやセキュリティに関する高度な知識・スキルの有無も重要です。
市場から信頼を失った瞬間にサブスクリプション型ビジネスは崩壊してしまいます。こうした「守りの力」も、高く評価されるポイントになります。
カスタマーボイスのアナリスト
一方、定量的なデータ分析だけでは読めないこともあります。
そんなに利用されていない、とあるひとつの機能が、実は加入や退会抑止に重要な効果を持っているということも多々あるのです。
「普段は使わないけど、万が一の時はこれが使えるから安心して加入できる」といったこともありますよね。
- なぜ入会してくれたのか?
- 顧客の利用継続になにが効いているのか?
- 顧客が飽きるのはなぜなのか?
- 何が足りないのか?
- 次にどんなものが期待されているのか?
こうした顧客の定性的な声(カスタマーボイス)分析できる能力を持った人にも、強い需要があります。
ビジネス/サービスデベロップメント
ここまで見てきたサービスを設計・管理・運営する人材やサービスを「形作ることができる」人材にニーズがあるのは、初期の立ち上げフェーズに限った話ではありません。
なぜなら、サブスクリプションサービスは、顧客とともに進化・変化していくことが求められるサービスだからです。
リサーチャー
サブスクリプション型ビジネスは、競合他社とサービスの中身で差別化するのが難しいので、どの企業も「圧倒的No.1」を目指してしのぎを削っています。
したがって、自社のサービスが顧客から選ばれるかどうかは微妙な差によることがほとんどなので、細部に至るまでの徹底的な分析を行う力をもった人材である「リサーチャー」にも強い需要があります。
- 料金プランの細かい違い
- 利用条件のなかの特定の一部
- ちょっとした機能のちょっとした使い勝手
こうしたところに顧客がAを選ぶかBを選ぶかの、決定的な分岐点が潜んでいる可能性があるのです。この差を見抜く力を持ったリサーチャーには高い需要があります。
サービスプランニング
こうした顧客の心のヒダを正しく理解したうえで、どうやってニーズにフィットするプランを組み立てることができるかが重要になります。これを担うのが「
サービスプランニング
」です。
サブスクでは多くの場合、無料お試し期間がついていたり、ライトプラン、スタンダードプラン、VIPプランなど、さまざまなプランが選択できることがほとんどです。
顧客にとってベストなプラン体系を設計できるかどうかで、事業の成否は大きく変化するものです。
ただ単に何かが使い放題になるだけではない、ちょっとしたオプションや特典を付け加えるだけで、顧客のマインドや動きが大きく変化するものです。
サービスそのものをデザインするという意味では、
サブスクリプション型ビジネスの世界における花形的ポジション
だと言えるでしょう。
シンプルに整理する技能を持つ宣伝・プロモーション
サブスクリプション型ビジネスにおいての宣伝・プロモーションの仕事は、特殊な技能が求められます。
サブスクは、ユーザーから見て複雑に見えることがよくあります。「何がどこまでできるのかよくわからない」と思われてしまっては、ほとんどの人は登録までたどりつかないでしょう。
理解していただくために、
シンプルに整理する技能
が求められます。
ユーザーに誤解させずに、適切に入会してもらう
ためにも、非常に細密に作りこまれた利用規約や利用条件を読み解いて熟知する素養が求められます。
ただ単に、ド派手な宣伝を打てばよいだけの世界ではありません。
提携交渉をリードできる人材
サブスクリプションの会員獲得は、宣伝・プロモーションを通じたオーソドックスな展開以上に、パートナーシップ戦略が重要になります。
例えば、「XXの会員になれば自動的にYYの会員にもなれます」というような提携関係の構築です。
一度構築に成功すれば一瞬で大きな顧客基盤を形成できるため、提携交渉をリードできる人材に対するニーズは計り知れないものがあります。
仕組みの構築に強い人材
サブスクリプションのシステム上の技術的な鍵は、認証と決裁にあります。つまり
ID/認証(登録/ログイン)
課金/決済
にあります。技術革新により、これらの領域は日々進化を続けています。
お客様がストレスなく、いかにスムーズに会員登録・ログインでき、決済ができるか。こうした仕組みの構築に強い人は、サブスクリプション型ビジネス構築と運用の中心的存在となれます。どんなアイディアも、実装できなければ、具現化できないからです。この領域から生まれるイノベーションの余地も、広大に残っていると言われています。
実現基盤構築のプロフェッショナル人材
サブスクリプション型ビジネスを実際に立ち上げて、長期継続的に運営をしていくことは、決して簡単な道のりではありません。「カスタマーサクセスを徹底的に追求していく」という美しい理念を実現するためには、その裏側に、<事業を実現するための基盤を構築できる人材>の力を必要とするのです。
ファイナンス人材(調達)
まず、資金調達を支えるファイナンスのプロに、強いニーズがあります。
サブスクリプション型ビジネスは、きわめて、資本の力が求められる事業なのです。初期に大きな投資を必要とし、長期にわたる回収期間を必要とします。そのうえ、激しい競争に勝てるかどうかは定かではありません。
しかし、繰り返しになりますが、勝った場合に得られる果実は、大変に大きなものです。この点を、出資者・金融機関等に適切にプレゼンテーションを行い、適時に、適切な投資を得ることができる力をもった人材は、ある種、この世界で最も強く求められている人材だと言えるでしょう。なぜならば、資金がなければ、事業は始められないからです。
バイイングの構造を組むことができる人材
そして、表から見えないがゆえに忘れられがちですが、「仕入」に相当する<バイイング>の構造を組むことができる人材が、決定的に重要です。
顧客に対して<サービス>として提供される材料を、製造するなり、仕入れるなりしなければなりません。
顧客に対して、<カスタマーサクセス>の観点からみて、いかに魅力的なサービスであったとしても、材料を提供してくれる側もが満足・納得してくれなければ、その<サービス>を維持することすらままなりません。彼らから見て、自分たちの提供しているものが安売りされているかのように見え、たくさんの人に安価にこすられて、価値がすり減っていってしまうような扱われ方をしてしまうようでは、また、長期的に見て、自分達の提供しているものへの顧客エンゲージメントが薄れていってしまうのであれば、サブスクリプション事業者と取引するメリットが薄くなってしまうのです。
サプライヤーとのWIN=WINの構造を巧みに設計し、交渉を通じて厚い信頼関係を構築できる能力を持った人材は、サブスクリプション型ビジネスを支える屋台骨ともいえる人材であり、市場から高い評価が集まる人材です。
カスタマーサクセスのプロフェッショナル人材
カスタマーサクセス
そして、何よりも、「カスタマーサクセス」のプロフェッショナルが、求められています。「カスタマーサクセス」を実現するための手段としてサブスクリプション型ビジネスが立ち上がってきているわけですから、当然と言えば当然です。
顧客に飽きられたら終わりです。決して飽きられないように、利用できる<サービス>の中身を定期的に入れ替えて(「編成」)、膨大なサービスラインナップの中から何を利用したらよいかを「探さずとも」「悩まずとも」わかるように提案をし続けてあげる(「編集」)、そうした営みが決定的に重要です。
とりわけ、サービスを使い始めたばかりの顧客は、「あまりにもなんでも揃っていて、なんでも利用できるので」迷ってしまうことが多々あります。使い慣れるまでの手ほどきを「オンボーディング」と呼びますが、このステップは、長期継続利用につながる、最初の極めて重要なステップになります。ただ単に、「なんでもあります、ご自由にどうぞ」、では、お客様は挫折して離れていってしまいます。
「カスタマーサクセス」を実現することを究極の目的として、
とにかく、事業者の側から、顧客に働きかけ続ける必要があるのです。
そして、事業者の側が、変化し続ける必要があるのです。
コミュニティマネージメント
サブスクリプション型ビジネスの成功の最大の鍵は、長期継続加入の実現ですが、そのための、顧客エンゲージメントを高める仕組みづくりも重要です。
サービスそのものの便益だけでは、長期に渡り継続利用してもらうことは難しいものです。したがって、会員が、「自分は、このグループの欠かせない一員なのだ」と感じられるような仕組みつくりが重要です。
会員とのオンライン・オフラインコミュニケーション環境の整備、コミュニティマネジメント、PR・ブランディングなどの取り組みがここに該当します。
企業と顧客の壁を越えて強い絆をつくり、ゆるやかに対話できる<場>を作り上げることができる力を持った人材には、強い需要があります。
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サブスクリプションを司るトップマネジメント(最高事業責任者)人材
強靭なリーダーシップ
サブスクリプション型ビジネスにおいては、事業マネジメント上の厳しいハンドリング要求と、カスタマーサクセスを徹底的に追求しようとする理想とが強烈に対立する局面が、必ず発生します。
その局面をいかにして乗り越えていくかを考えて行動を起こしていく<強靭なリーダーシップ>を持ったトップマネジメントが、人材市場において圧倒的に不足しています(であるが故に求められています)。
サブスクリプション型ビジネスのトップマネジメントには、ビジョナリーであることが求められます。強烈なKPI管理だけでは、人材の離反・大量流出を生み出してしまいかねません。
したがって、自分たちの最終的なゴールが<カスタマーサクセス>の実現にあることを、常に、熱く、インナーメッセージングしていく必要があります。サブスクリプションビジネスは、最終的に花開くまでに時間を要する、苦しい苦しい長期戦です。ジョブホッパーには向いていない仕事である、
とも言えます。じっくりと腰を据えて、サービスが辿った変化の歴史を熟知しようという姿勢をもった人が向いています。すなわち、信念と情熱、覚悟をもった人材こそが、最高事業責任者に相応しい、と言えます。
弾力性と回復力
現在は、サブスクリプション型ビジネスの黎明期ともいえ、あらゆる領域で、試行錯誤が続いています。また、必ずしも、あらゆる産業において、「サブスクリプション型」がぴったりはまるというわけでもありません。
ゴールはあくまでも<カスタマーサクセス>であり、「サブスクリプション」は、手段なのです。
トップマネジメントには、市場/顧客の特性にあわせて、オリジナルの「サブスクリプション型ビジネス」の形を作り上げていく力が求められます。状況によっては、サービスの見直し、大幅な価格変更、さらには、撤退判断を求められることもあります。
サブスクリプション型ビジネスは、顧客と一蓮托生の関係を築くことによって成立するライフライン的サービスですから、事業者側の勝手な都合で、「明日、サービスを終了します」と言うような唐突な決定やアナウンスを行うことは、社会的にも許されにくいものです。
したがって、常に強烈なプレッシャーがかかる仕事であるので、強いレジリエンスを備えたトップマネジメントが求められるというわけなのです。
洞察力とネットワーク
サブスクリプションは、使っていても使っていなくてもお金がかかる、という意味では、生活費における固定費です。
これからさまざまな産業で急速にサブスクリプション型のサービスが増えてくると、当然、業界内だけではなく、業界の外との競争も生まれますし、当然の流れとして合従連携の動きも出てきます。
トップマネジメントには、経済全体を俯瞰して洞察できる能力と、業界の垣根を超えたネットワークを有していることも求められます。
また、サブスクリプション型ビジネスが進化していくにつれ、会員管理や、課金決済部分を代行するプラットフォーム事業者が台頭してくる可能性があります。そうした技術的な動向に対する独自のアンテナを有していることが求められます。
これらの条件を全て満たしたトップマネジメント人材は、市場から相当な評価を集め、相当の報酬でもってハイアリングされていくことになるでしょう。また、こうした厳しい世界でキャリアを積んだ経験は、将来にわたり、その方の大きな財産となっていくことでしょう。
なぜサブスクリプション型ビジネスが注目を集めているのか?
サブスクリプションの課金形態
サブスクリプション型ビジネスのサービス利用者は、月額何円、年額何円という形で継続的に料金を支払うかわりに、そのサービスの「会員」となり、そのサービスを自由に利用できるようになります。
ことの起こりは、映像配信や音楽配信サービスの世界で、月額制で、大量の映像や音楽が見放題・聞き放題になるサービス(Netflix, Spotify等)が、主に米国を中心に世界各地で大きくヒットしたことがきっかけでした。
そこから、様々な産業において、同じように、サブスクリプション型でサービスを提供する企業が次々と現れてきたのです。
「使った分だけ支払えばよい」という方式がサブスクリプション型の課金形態だ、とするような解説記事も世の中に多く見られますが、それは、厳密には、「都度課金」と呼ばれる課金形態です。
たとえば、レンタカーは、自動車を自らの資産として購入するのではなく、「使った時だけ(借りた時間だけ)料金を支払えばよい」というモデルですが、この形態においては、あくまでも、利用の都度、料金を支払う必要があるので、サブスクリプション型の「継続課金」とは区別されます。
例えば、「月額何円で、レンタカーでは普通借りられないような高級車に、常に清潔な状態で乗り放題」というようなサービスにおける課金形態は、「継続課金」であり、これがまさに「サブスクリプション型」です。
いうならば、「使おうが、使うまいが」「ちょっとだけしか使うまいが、物凄い回数使おうが」、おなじ料金が発生する、という形の課金形態なのです。
この点を、事業者側の観点で見た時に「収入が確実に読める」という点が、大きなポイントになります。
サブスクリプション型ビジネスが注目される本質的な理由
しかし、このような、「課金形態」だけでサブスクリプション型ビジネスの本質を捉えようとすると、見えなくなってしまいます。
「月額料金や年額料金を継続して支払う形のビジネスは、顧客から安定的に収益が得られるので、それがサブスクリプションビジネスの旨みであり、本質である」というわけではないのです。
また、「現代の消費者は貪欲で移り気である。また、ひとつのものに長期間縛られてしまう<所有>という形態に煩わしさを感じており、<利用>できればよいと考えるようになってきている。とにかく、あらゆるものを、できるだけ<利用回数1回あたり単価を安く>消費し尽くしたいと考えている。したがって、<~~放題>が求められており、それがサブスクリプションビジネスが人気を集めている本質的な理由なのだ」というわけでもないのです。
確かに、それらも、サブスクリプション型ビジネスが現在活発になっている理由のひとつではあります。
しかし、現代の経済社会において、サブスクリプション型ビジネスがこれほどまでに注目されている本質的な理由は、他にあります。それは、最先端の企業経営モデルとしての「カスタマーサクセス」という概念の誕生と、浸透です。
「カスタマーサクセス」を担える人材が、今、市場で求められている理由
サービス化
企業が、「カスタマーサクセス」を徹底的に追求していこうとすると、まず、おのずと、事業の「サービス化」が進んでいくこととなります。
IT産業の世界では、「SaaS(Software as a Service)」、「PaaS(Platform as a Service)」、「IaaS(Infrastructure as a Service)」と呼ばれるソフトウェアやプラットフォームやインフラを製品として購入したり、自社設備として新規に構築したりしなくても、「利用する権利に対して権利料を支払えばいい。そうすれば、あとは、自由に利用可能(※「利用した分だけ支払えばいい」ではないことに注意が必要です。利用しなくても、固定された料金は支払わなければなりません)」というモデルが標準になりつつあります。
まさに、どれくらい使おうが、一定の料金で、常に最新かつ万全な状態のソフトウェアやプラットフォームやインフラを<サービス>として利用可能になるわけです。「あなたがお望みのものを、いつでも利用できますよ」という<状況>を提供する形の企業形態にシフトしていく現象こそが<サービス化>と呼ばれる変化なのです。
この、<サービス化>は、まさに、<カスタマーサクセス>の理念に適合します。顧客は、自身の成功に必要なものを、自由自在に選んで<利用>することができるのです。そして、<サービス化>の手段として、採用されることの多い課金形態が、「サブスクリプション型」の継続課金なのです。
<サービス化>は、IT産業の中だけで進んでいるわけではありません。<サービス化>はあらゆる産業で進行しています。自動車産業においても、「クルマを売る」従来型のビジネスモデルだけではなく、「いつでも、好きな時に、好きな車を、選んで乗れる」という「サービス」型のモデルが存在します。いわゆる「レンタカー」のサービスです。
このように、<サービス化>という現象自体は、決して、真新しいものではありません。IT技術の進化で、企業が<サービス化>しやすくなってきているということと、利用者が<サービス化>された企業のサービスを受けやすくなってきている、というだけのことなのです。しかし、「レンタカー」は、サブスクリプション型のビジネスではありません。課金形態が継続課金ではないからです。
徹底的なプロセスの継続と投資
では、昨今注目を集めている「サブスクリプション型ビジネス」の本質はどこにあるのでしょうか?それは、企業が、<究極のサービス化>を進めていくにあたり、採用することが必要な(もしくは、適合性の高い)ビジネスモデルなのだ、ということなのです。
噛み砕いて解説を加えていきます。
企業が、「カスタマーサクセス(顧客の成功)」をサポートしていくためには、顧客の成功を実現するために必要となる「あらゆるもの」を、企業として常に完備しておかなければなりません。あらゆる選択肢を用意したうえで、顧客に最適だと思われる<選択>を提案し、その使い方についてアドバイスをし、他の顧客の成功体験を<参考>として提示し、何年経っても飽きないように常にサービスの中身を入れ替えたり補充したりしつつ、その顧客にとって新鮮な提案を繰り返していく。そうしたプロセスを徹底的に継続していく必要があるのです。
そのような体制を整備するためには、企業としても、巨額の事業投資を行う必要があります。
極端な例ですが、「あらゆる高級車に、いつでもどこでも、<在庫無し>の不安なく、即時に乗り放題!」というサービスを実現するために、全国に、どれだけの台数の高級車を保有して整備して常設しておかなければならないかを考えれば、自明でしょう。
相互のコミットメント
そうなると、おのずと、企業としても、顧客に対して、「ある程度長期間に渡った継続的な利用と、特定期間における、ある一定以上の水準の利用料の支払(少なくとも、ある領域の消費については、他の手段を使わず、すべてそのサブスクリプションの枠内で消費することが合理的だ、と顧客が考えるようになる水準の利用料の支払)」をコミットしてもらう必要があるのです。
また、「自分が何者であるのか」を会員情報として登録し、「何をどのように利用しているのか」のデータを企業が自由に分析することを許可してもらう必要があるのです(そうすることで、企業は、投資を最適化していくことができるからです)。つまり、「なんとしても顧客の成功を実現する。そのために必要なものは、あらゆるものを(あらゆることを)提供します。その代わり、顧客のあなたも、一定の金額を、継続して、お支払い続けてください」ということなのです。
企業と顧客が、カスタマーサクセスの実現のために、相互に<コミットメント(約束)>をすることではじめて、サブスクリプション型ビジネスの構築は可能になります。
このように、サブスクリプション型ビジネスというのは、カスタマーサクセスを指向した企業が、事業のサービス化を進めていく延長線上において、<究極のサービス化>を達成していくための手段として採用されるビジネスモデルである、ということなのです。
サブスクリプション型ビジネスの行方
サブスクリプション型ビジネスは、会員数が、ある一定の規模に達するまでは、巨額の初期投資と運用コストが重たくのしかかるため、「なかなか黒字に辿り着かない」という構造上の特徴を持っています。しかし、一度そのボーダーを超えてしまえば<巨額の収入を安定的に叩き出すドル箱>となるのです。
顧客はもはやその環境から離れられない(多くの利用データをたっぷりとそのサービスに引き渡しているので、他のサービスに乗り換えると利便性を損ない、実質的に他のサービスに乗り換えることができなくなってしまう)がために、事実上その事業者は、ほぼ永遠のスタンダードの地位を占めることができるようにさえなるのです。
サブスクリプション型ビジネスは、規模の経済が働くため、より多くの会員数を集めているサービスのほうがより魅力的なコストパフォーマンスを提供しやすい状況になります。ナンバーワン企業のみが大きな果実を得る、ということです。多くの企業がこぞってサブスクリプション型ビジネスに参戦しつつあるのは、そういった理由です。
米国発の4大巨大IT企業グループを称して”GAFA”と言いますが、サブスクリプション型ビジネスに関する4巨人の動向を見ておくことは、今後のサブスクリプション型ビジネスの行方を考えるのに有用でしょう。
Amazon
Amazonは、”Amazonプライム”という月額のサブスクリプションサービスを提供しています。加入することで、スピーディー&快適に、注文した荷物を受け取ることができるようになります(加えて、様々な特典を享受することができます)。
Googleは、その中心的なサービスである検索の世界において、有料課金型のサブスクリプションサービスは提供していませんが、傘下の(関係会社の)YouTubeにおいて”YouTube Premium”という月額のサブスクリプションサービスを提供しています。加入することでより快適にYouTubeを使用することができるようになると共に、様々なコンテンツに自由にアクセスできる権利が得られます。
Facebookは、そのサービスの利用自体は無料ですが、参加するために会員費の支払いが必要な「有料のFacebookグループ」を作ることができる機能(サブスクリプション機能)のテストを2018年頃から実施していると言われています。2019年2月現在、本格的なリリースには至っていないようですが、この機能が実現されれば、誰もが簡単にサブスクリプションのビジネスを開始することができるようになります。
いうならば、Facebookはサブスクリプション型ビジネスのプラットフォームとでも呼べる存在に発展していく余地を秘めているのです。今後の動向が、注目されています。
Apple
そしてAppleですが、”Apple Music”という月額のサブスクリプションサービスを提供しています。いわゆる音楽の聴き放題サービスです。
しかしながら本丸のAppleのハードウェアデバイスそのものは、いまだにサブスクリプション化の兆しがありません。Appleのハードウェアデバイスに対しては、いつ新型が登場するか分からない・さまざまなデバイスを使い替えながら楽しみたい、というような潜在的ニーズが強いと言われますが、現在のところ「月額いくらで、Appleのハードウェアデバイスが使い放題」というようなサブスクリプション型サービスの展開の兆しは見られません。
したがって、Appleのビジネスの中心は、従来型の「製品を売る」というモデルのままであると言えます。もちろん、Apple Careと呼ばれる登録制のサポートサービスの提供が行われており、サブスクリプションに近いモデルかもしれませんが、これはただ単に「一定期間(数年分)の保証を買う」というタイプのサービスであって、「顧客側がある目的を達成するために(つまり「成功」を実現するために)必要となるさまざまなリソースに、自由自在にアクセス可能な権利を与える」というタイプのサービスではありません。したがって、本来的な意味で、「サブスクリプション型ビジネス」とは呼びにくいものです。
このように、”GAFA”の4巨人すら、どのように自社のサービス群を<サービス化>して<サブスクリプション型ビジネス化>していくべきなのか(はたまた、いくべきではないのか)について、模索と試行錯誤を続けている最中なのです。サブスクリプション型ビジネスの時代は、まだまだこれからが本番だ、と言えるでしょう。
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