取材・文:プロの副業編集部
今回お話を伺ったのは、メディア立ち上げ、SEO、YouTube、広告運用、SNS・PRなど、幅広い領域で事業の立ち上げからグロースまでを支援してきたTさん。
プロの副業を通じて、BtoB営業支援領域の企業にも複数年にわたり伴走しているプロ人材でもあります。
今回は、Tさんの原体験やこれまでの経歴、独立後の支援実績から、「プロ人材」として企業にどう入り込むべきかまで伺いました。

1996年、東京都品川区生まれ。大学在学中よりブログやSNS運用を経験しながら、創業から間もない住宅ローンテック企業へ参画。その後、複数のオウンドメディアの編集長業務を歴任。同時に運営していた不動産系のYouTubeチャンネルでは、開設から約2年半でチャンネル登録者70万人超を記録。
3年の副業期間を経た上で2023年7月より完全独立。現在はフリーランスとして新規事業の立ち上げ、コンテンツマーケティング、SEO、広告運用、SNS・PR、YouTube運用などを支援している。
キャリアの原点は音楽。「作る側になれないなら、発信を通して作り手を支える側になりたい」
「私の両親は演歌歌手で、幼い頃から様々な形で音楽に触れてきました。一時期は自分も音楽の道を志したいと考えていたのですが、様々な経験を通して、自分自身が音楽の作り手になることはできないなと感じたんです。」
発信することやメディアの運営に携わるTさんのキャリアの原点には、音楽があります。
「そんな中で学生時代に出会った好きなバンドが、図らずも私がやりたいことへの解像度を高めてくれたと思っています。そのバンドは決して広く売れているわけではなく、生活のために会社勤めしながら活動を続けている状況でした。周りの親しいバンドはどんどん世に出て行ってしまう中で、自分たちはこのまま音楽を続けるべきでないのだろうかと不安が漏れ出た場面に遭遇しました。」
「でも私にとっては彼らの音楽は必要不可欠で、彼らに出会ったことで日々が豊かになったという事実があります。ということは、実は自分と同じようにその音楽を必要とする人はたくさんいて、ただ出会える接点や機会がない状況なのではないかと。これが解決すれば結果として、音楽を受け取る側も作り手もそれぞれ豊かになり、好きな音楽が作られ続ける世の中ができるのではないかと思ったんです。いつかこの世界観を実現するために、まずは伝えること・発信することを自分なりに極めてみようと思ったのが、今のキャリアに踏み込んだきっかけです。」
そこでTさんは、音楽を作る側ではなく、音楽を作る人を支える側になる道を考えるようになりました。これを実現したいという思いが、Tさんがメディアに興味を持つ最初のきっかけになりました。
大学・インターン時代:学生時代から現場に飛び込んで鍛えたメディア運営経験
情報システム工学科に進学したTさん。キャリアの第一歩を踏み出したのは、大学時代だったと話します。
「当時は自分が思い描く世界観を実現するために起業したいという思いが、良くも悪くも強くあったのだと思います。そのために周りの人と差をつけたいと、入学してすぐにインカレのビジネスサークルに入ってみたんです。」
「毎週集まって、マーケティングの手法やプレゼンの仕方、考え方などを勉強したり、時には大手のVC企業と連携してビジネスコンテストの主催をしていたこともありました。一方で、『こんな事業立ち上げてみたいね』『こんなメディアを運営しようよ』など話は盛り上がることはあっても、いざ実現しようとした時に、他のメンバーはインターンなどで忙しいのを理由に何も進まなかったんです。そこで、じゃあ自分もインターンを始めて、机上の空論と化すのではなく、実際に会社の中でメディア運営を経験してみたいと思い、大学2年の4月からインターンを始めました。」
インターンとして参画したのは、創業からわずか数ヶ月の不動産・金融事業を展開するスタートアップ企業でした。
「不動産や金融業界に興味があったわけではないですが、初回の面談やその後のやり取りから感じ取れる会社としての雰囲気がすごく魅力的で、尚且つ会社としても事業としても立ち上げのフェーズに関われることは貴重だと思い、とりあえずここでという気持ちで入ってみました。」
大学生のインターンという立場でありながら、メディア運営を実践的に学ぶにはうってつけの環境であったようです。
「所詮インターンなのでライティングや簡単な作業をこなすことになるのかなと思っていたのですが、メディアの長期方針や記事の要件策定、競合サイトのリサーチ、外部ライターのディレクションなど非常に多く経験ができる環境でした。」
ライターから事業のオーナーへ。立ち上げ期のメディアで磨いた「0を1に、1から最大にする」の力
時が経つにつれてメディア全体をみる立場になるとともに、そのまま同社に正社員となったTさん。立場がまた変わったことにより、メディア運営における新たなるチャレンジをしたと言います。
「新しいメディアの立ち上げをお任せいただけることになったんです。会社としては初となる企業向けの記事メディアサイトです。これまでは一緒に運営するメンバーや体制がある状態での進行でしたが、今回は社長直下の部門で担当も私1人。正社員となる、区切りとなるこのタイミングで『この立ち上げを自分にやらせてください』と社長に直談判して実現しました。」
この経験がメディア運営やSEOに止まらず、今、Tさんが幅広い領域で活躍できている要因のようです。
「これまで携わってきたメディアは自社の営業に必要なリードの創出を行うのみでしたが、今回はこのメディアだけでマネタイズを完結させる仕組みを0から構築する必要がありました。メディアのコンテンツをみる編集長的な立場から、事業オーナーとしての立場になるわけです。メディアの運営企画書とともに3ヵ年の事業計画書を作り、経営陣への提案を何度も繰り返し、ようやく形になりました。この過程でSEOだけでなく、事業立ち上げのノウハウや、運用過程での広告運用・PRとの連携など、幅広く使える武器ができたと感じています。」
記事・SEOから脱却する動画コンテンツへの挑戦
これまで記事メディアに特化して経験を積んできたTさんですが、更に新たなチャレンジをすることになります。
「色んなきっかけがあり、記事メディアと並行してYouTubeチャンネルの運営をすることになりました。国内外の様々な不動産を紹介するチャンネルです。これまでは記事とは当然フォーマットも違う上に、これまで培ったメディア運営の型も通用しません。SEOと異なり、成果を出すために必要な戦略やコンテンツ構成に再現性をもつことが難しい分野なので、最初はかなり手探りでした。」
Tさんが企画・運営を主導したこのチャンネルは結果として開設から約2年半でチャンネル登録者75万人規模まで成長、人気動画は数百万再生されることとなります。
「マスに向けたチャンネルであることもあり、とにかく再生回数が求められる事業でした。YouTubeにはサムネイル・タイトル・動画のトンマナや構成など、様々な変数がある中で、とにかく意識したのは仮説立てと検証です。特にサムネイルに関しては、撮影前から外観・内装写真をみて構図と、画像に載せるコピーを何パターンも準備して、実際の現場に行ってからまた再調整。それを毎投稿で試して傾向を分析することで、徐々に勝ち筋が見えてきました。」
「またコンセプト設計も非常に重視していたところです。不動産に興味がある人だけに限定した発信であれば多く視聴されることはなかったと思います。そのため、テレビ番組の企画のように、なぜかクリックしてなんとなく気になって最後まで見続けてしまうというチャンネルを維持し続けました。」
このように事前に仮説を持ち、現場で調整する姿勢は、YouTubeに限らず、Tさんの仕事全体に通じています。
副業の始まり:コロナ禍を機に自分の力試し
Tさんが副業を始めたのは、2020年のコロナ禍。
「2020年の3月。会社の仕事によりコミットできるように、大学があった埼玉から会社から徒歩圏内のエリアに引っ越したんです。当然、初期費用もかかるし家賃も大きく上がる中、間も無くコロナ禍が訪れて会社の先行きが不透明になり、予定していた賞与も出ないことになりました。その時に、今ある環境も会社も絶対安定ということはないのだなと痛感して副業を始めました。」
本業で確かな実績を積んでいるTさんですが、副業のスタートは決して簡単ではなかったようです。
「クラウドソーシングで案件を探すところから始まりました。本職がある以上、色んな制約もあり堂々と開示できる経歴もないため、まずは記事のライティング業務を地道にこなしていく日々でした。毎日、朝5時に起きて会社の始業時間まで原稿を書いて、終業時間になったらまた夜中まで書いての繰り返しで、今思うと相当ハードでした。」
しかし、この経験がのちに独立するうえでも大きな意味を持ちます。
「そんな中でライティング業務を担当していたうちの1社である転職エージェントの会社様から『ライティングは他の人に依頼するので、もっとコミットして、このメディアの編集長として管理・運用する立場をお願いできませんか?』という打診をいただいたんです。このお声がけがすごく嬉しくて、自分の仕事ぶりが、他社でも求められ、通用するんだと初めて感じられた出来事でした。」
ここから副業で活躍するために進むべき道筋が明確になったといいます。
「ちょうどこの頃からプロの副業さんとも繋がり、副業で得られた成果をもって、また新しい会社様にご相談いただいて次の案件に繋がるという良い循環ができていました。そして副業を始めた当初は地道に泥臭くライティングを続けるのみでしたが、徐々に案件の種類も上流に寄ってきました。とにかく時間をかけて手を動かす業務から離れたことで、精神的な余裕も生まれてきました。」
業界が変わっても、成果に向かう「考え方」は持ち運べる
約3年に及ぶ副業期間を経て、2023年7月に独立。不動産・金融領域から始まったキャリアですが、独立から3年が経った今では人材、医療・介護など幅広い業界で支援実績を積んでいます。そして対応可能領域もSNS、YouTube、PR、CRM、広告運用などかなり広いです。Tさんはいかにしてなぜ業界を越えて支援できるのでしょうか。
「まず、多くの副業案件に取り組む中で、これまでの経験は業界問わず使えるものだと実感できたことが大きくあります。業界は違っても各マーケティング施策を進行する流れや考え方は共通しています。」
一方で、業界が異なればターゲットのニーズや市況も異なるため業界研究も求められます。
「業界理解については、先ほどの転職エージェントさんとの取り組みが活きているのだと思います。当時、編集長の打診いただいた時に、嬉しい一方で、メディア運営のノウハウはもっているものの、自分自身は転職したこともなければ、人材業界でも経験もないので、先方が求める高いクオリティ・情報の解像度をもって運営ができるのかという点で不安もありました。これを解消するために、日頃から紹介先となる会社の採用説明会に参加したりIR情報を読み込んだり、相手の業界理解を深める習慣ができたんです。」
BtoB営業支援領域での支援。限られたリソースで「リストを増やす」というセンターピンに向き合う
プロの副業経由でTさんが支援している企業の一つに、BtoB営業支援領域の企業があります。同社では、メールマーケティングを通じて見込み顧客との接点を創出し、クライアント企業へリード情報の連携を行う事業を展開しています。その中で、求められたのがメールリストの拡大です。
「メール配信リストを増やす方法にはいくつか選択肢がありますが、この会社様はもともと複数のオウンドメディアを保有し、いずれも一定程度グロースされている状態にあることが強みとしてありました。一方で、それぞれのメディアは、一定のトラフィックはあるものの集客機能はまだ十分ではなかったのです。そのため複数のメディアを横断した導線の強化と、成果を生み出す上で必要な新規コンテンツの展開という2つの方法を選択しました。」
Tさんは、全体の数字管理から記事構成の作成、必要に応じた記事制作まで、現在も実働を含めて支援しています。
「当初から社内にSEOをはじめメディア運用に関する担当者様はおらず、いざ施策を進めるにしても、手を動かせるのは私しかいない状況です。最小のリソースだからこそ、いま社内にあって使える情報や素材などの武器は何か、そしてそれを使った時に生み出せる成果はどの程度で何が足りないのかを見極めながら進行しており、ありがたいことに3年以上の長いお取り組みになっています。」
事業にとって何が生命線なのか・今あるリソースでどの程度の成果を出せるかを理解し、そのために必要な打ち手を継続できる形に落とし込むこと。Tさんの伴走は、まさにその部分にあります。
「何から始めればいいかわからない」そんな企業こそプロ人材を活用すべき
Tさんのようなプロ人材は、どのような企業フェーズで最も価値を発揮できるのかを聞くと答えは明確でした。
「何かマーケティング施策を始めるべきだけど、何からどうすれば分からない・目先の業務で忙しくて考える余裕がないという会社様とのマッチ度が高く、良い取り組みができている印象です。」
すでに社内に強いマーケティング専門人材がいて、施策も十分に回っている。その上で、さらに成果を伸ばすために追加のリソースとして人が欲しい。こうした企業よりも、Tさんがより力を発揮しやすいのは、まだ整理されていない課題を抱える企業です。
「幸いにもこれまでスタートアップ企業での業務進行や、0からの事業立ち上げなど、ミッションが定められていなかったり、それも限られたリソースでいかに成果を最大化させてきたりと、良い意味で型がなく柔軟性の高いキャリアを積み重ねてきました。だからこそ、どんな状況でも個別の課題・状況に合わせたサポートが可能だと思っています。」
Tさんは、きれいに要件がまとまっている案件だけを求めているわけではありません。
むしろ、課題が曖昧な段階から入り、一緒に構造化しながら前に進めることに価値を感じています。Tさんは決まったタスクをこなす外部人材というより、事業の中に入り、何をすべきかを一緒に考えるパートナーに近い存在です。
また、外部人材を活用する際、よくある懸念の一つに社内にノウハウが残らないのではないかという点が挙げられます。Tさんも、その懸念は理解しているといいます。
「定例のお打ち合わせでオフィスに伺うことも大事にしていますし、会社様によっては1日デスクをお借りして会社の雰囲気を感じながら業務進行をすることもあります。外から切り出された作業だけをこなすのではなく、会社の中に入ってみる。会議に参加するだけでなく、社内の方と話してみる。そうして初めて、外からは見えなかった個別の課題が見えてきます。」
まず事業の中に入り、見えるものを増やし、必要な役割を引き受けながら、前に進めるための方法を探すということです。プロ人材をうまく活用する企業にとって重要なのは、最初から細かく作業だけを切り出すことではなく、事業課題の背景ごと共有し、一定の裁量と情報を渡すことかもしれません。
AI時代でもSEOのプロとして生き残る人材とは
インタビューの中では、AI時代におけるSEOやメディア人材の価値についても話が及びました。
「AIの発達の過程で、『SEOが得意です』『ライティングができます』というだけでは勝負できない環境になりつつあると感じています。普段、ご相談をお受けする担当者様の中にはAIの活用にすごく熱心に取り組まれる方もいて、『AIに指示出すだけで、外部委託による原稿よりも良い感じの記事ができました。これを量産した方が効率よく流入が増えるんじゃないですか?』などというお声をいただく機会も増えました。」
AIの登場により、文章の作成が誰でも簡単にできるようになりました。ClaudeやChatGPTなどを使えば、簡単にそれらしい文章はすぐに出てきます。しかしTさんは、良質なメディアやコンテンツを作るという目的に対しては不十分だと話します。
「確かにAIによって、ライティングだけでなく、競合サイト調査や自社サイトの課題整理、キーワード戦略の構築や記事の構成作成など、SEO対策においてやるべき工程が大きく効率化できる状況にあります。一方で、AIで生成されたものをそのまま業務進行し、メディアのコンテンツとして反映したら、良い成果が出るかと聞かれると、それは違うと思っています。」
AIを使って文章を作ることと、SEOで評価されるコンテンツを作ることは同じではありません。重要なのは、AIの機能とSEOの評価軸を理解し、その掛け算ができることです。
「またこのAI時代における自分自身の価値提供の仕方を模索すると同時に、この状況下で私が意識しているのは、SEOで成果を出すにあたって求められることは何か、評価される良質なコンテンツとはどういうものなのかという本質的な部分を言語化し、クライアントに伝え理解を深めていただくことだと思っています。」
「AIで生成できる原稿は、言ってしまえば他社でも作れる基本的な情報を集約しただけのものです。ただ、担当者様のSEOに対する理解を深めていただければ、例えばその生成された原稿に自社が保有する独自情報を混ぜ込んで、より評価される記事になるのではないかという考えが担当者様自身から浮かんでくるようになります。実際にそういった折衝を行って、独自情報を追加するために関連部門に協力を仰いで情報提供いただけるというケースも多く見られるようになりました。」
AIを使えるだけでも、SEO記事を書けるだけでも不十分な時代だからこそ、現場に寄り添いノウハウを共有しながら取り組める人材の価値は高まっていくはずです。
一歩を踏み出しきれない方へ。「自分のスキルの真価は、外でこそ発揮される」
最後に、副業やフリーランスに興味はあるものの、前に踏み出し実行に移すことができていない方へのメッセージを伺いました。
「まず本業で得られているスキルや経験は、社外で経験を積むことで初めて真価が実感できるものだと考えています。自分にとって当たり前にできること、今いる会社の人にとってもできて当たり前とされていることが、少し外に出てみるとすごく喜ばれて、求められることは往々にしてあります。だからこそ、まずは副業でも転職でも、何らかの形で、活躍の場を広げることが大切だと、曲がりなりにも身をもって感じてきました。」
実際に他社で自分のスキルが通用すること。そのスキルに対して、ありがたいと言ってもらえること。そして、お金を払ってもらえること。その実感を持つことで、自分の市場価値が一気に現実味を帯びてきます。
「自分が今もっている価値を発揮をしながら、新しい環境で次に使える武器を手に入れる、このサイクルを作ることで、どんどん活躍の場を広げ深めて、今は想像もつかないような、さらにその先のキャリアを築いていけるのではないかと思っています。」
Tさん自身も、副業を通じてその感覚を得た一人です。
会社の中だけでは見えなかった自分の価値が、外に出ることで見えてくる。副業は、独立のためだけではなく、自分の可能性を確かめる手段にもなります。まずは疑わずに外で試してみる、その一歩が、次のキャリアを動かすきっかけになるのかもしれません。
まとめ:プロ人材の価値は、スキルの切り売りではなく「一緒に前へ進めること」
Tさんのキャリアを振り返ると、常に共通しているのは「まず中に入り、寄り添いながらともに前に進める」という姿勢です。
どの場面でも、Tさんは完成された環境に後から乗るのではなく、まだ整理されていない状況に入り、何をすべきかを考え、自分で手を動かすことにも抵抗なく支援をしてきました。
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